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管理人の雑記

愛する対象の喪失

投稿日:2020-11-30 更新日:

エーリッヒ・フロムの格言

未熟な愛は言う「愛してるよ、君が必要だから」成熟した愛は言う「君が必要だよ、愛してるから」――エーリッヒ・フロム

昨年の今日、最愛の子のやせ衰えた小さな体と繋がったか細い命が尽きるように途絶えた。

愛犬の死から一年が経ち「愛する対象の喪失」という問いにようやく自分なりの答えが出せたのでそれを書き留めてゆきたいと思う。

先ずペットロス、死別、永訣それら愛する対象を失うという経験(失恋などもこれらに含まれる)をする人間は共通の絶望に打ちひしがれることとなる。主体となる人により程度の差こそあれ、その絶望がもたらす苦しみの性質は一様で、最も大きいものであれば明くことのない闇を延々と生涯に渡り胸中に抱え続けることとなり、それは耐え難く自死に救いを見出すほど陰惨な苦しみである。

例えるのであれば「己の肉体の一部となっていたものが引きちぎられ欠損する」その様な感覚だった。

それほどまでに人を苦しめる絶望の本質とは「喪失感」だ。手を伸ばさずとも自ずと近づいてきて手の平や膝の上に伝わる温もり、就寝中の部屋に響くいびきの音や顔にかかる愛しい寝息、そして時間に正確な空腹を伝えようとする懸命な意思。家に帰ると当然のようにあった「在るべき者」の姿がそこには無く、無いことが当然へと変わってしまった日常。

それらの寂寥に喪失を覚えた次の瞬間、暗幕が引かれたかのように陰鬱の帳が降り絶望の闇に包まれる。

時が過ぎればそれを覚える間隔は開き、日常の生活を送るのに支障をきたすことも無くなる。しかし、ある一定の間隔になるとそれ以上に開くこともなく突如として襲い来るこの喪失感を生涯に渡り抱えて生きてゆかなければならない。

ペットロス、死別、永訣の類によって受ける喪失がこれほどのものとは知る由もなかった。近親者の死は二十代の頃に祖父母との別れなどで経験をしていたが、それらの死とは全く異質のものだった。

同じ「死」による別れでありながら何が違うのだろうか。

恐らくその違いは死の性質などによるものなどではなく、自身の主体的問題であり「愛」の有無だったのだと思う。結果、僕は祖父母から愛を受け育ったが、自らが祖父母を能動的に愛しはしなかったのだと気づかされる羽目となった。

故に、前述した「主体となる人による程度の差」とは、死する対象への自身の愛の有無によって死から受ける喪失感の大小は異なった結果になることを指す。

釈迦の教えに「愛別離苦」というものがある。愛を持つが故に別離の苦も生まれるという仏教の「AによってBが生じる」因果性の理論である。

つまり我々は普段、愛とは「歓び」を得るためのものと捉えがちだが、その内には元から「苦しみ」の性質も内包されていることを忘れてしまいがちになる。ならば、この苦しみもまた愛するがゆえに生まれた一つの感情であり、未だあの子と共に在りたいと欲するも、触れて、感じ、意思を取り交わすことの出来ない存在となってしまったことを自覚し引き起こされていたのだと悟る。

しかし、それと同時にもう一つのことに気づいた。

それは、この感情の内にはあの子がまだ存在しているということだ。いや、肉体を失った今、あの子の存在しうる場所はもうここにしか無かった。苦しみを感じるということは心の内に姿を思い描き「認識」をしている、認識の内に存在があるからこそ苦しみが生じる因果。それは未だ「共に在る」ということの証拠に他ならない。

その事に気づいた瞬間、苦しみは歓びへと変わった。

愛には「歓び」と「苦しみ」の二つの性質が内在しているのだ。

もし、苦しみから逃れようと「愛すること」を止めてしまうのなら肉体を持たない者は完全にこの世界から消失し、それは自らの手で愛する者を忘却の彼方へ追いやるという事である。

愛する他者と一体になること「心の交合(まぐわい)」、それは何よりも自分が望み欲していたもの。肉体を纏う物質の「固体」である生命は他者と決して一体となることは出来ない。しかし、上述したことから存在としての「個体」であれば可能なのだ。その一体化への望みを可能にするのは肉体ではなく精神であり認識である。そして、その唯一の手段は「愛すること」の他に無い。

「愛すること」とは他者から愛されることを望む受動的な行為ではなく、自らが能動的に愛し、さらにはその身を擲ち愛する者に捧げることが可能な状態を言う。自己を捨て己の肉体は他者を宿らせる依代とする、そうした認識的手法を使うことによって人間は初めて他者を自らに内在させることが出来「一対の存在」となることを可能とする。

これはキリスト者がそれまでの自己を捨て、バプテスマ(洗礼)を受けた後に自らの肉体を三位一体である聖霊の宿る宮とし、神と一体化することで神へ愛の祈りを捧げることが可能になり、そして自身も神からの愛を享受することが出来る。それに近い解釈なのかもしれない。

キリスト教では自己犠牲が尊ばれ、それは神の愛「αγάπη(アガペー)」とされる。その自己犠牲の真意は他者の幸福だけを望むものではなく、それが自らの「救い」でもあるからだと僕は考えている。愛による「一対の存在」と成り得た者には「対象者の歓びが自らの歓び」となるのは必然のことなのだから。

まことに「愛すること」の意味を知り、初めて愛の萌芽は始まる。そして、それを心の内に育むことは言い換えれば愛する者への「信仰(faith)」なのかもしれない。「信じる(belive)」ではなく「信頼する(trust)」でもない、それらは全て主体が客体へと望む願望でしかない。「信仰(faith)」とは己を捨て、客体に意思とその身を委ね捧げることである。

ならば、愛することを決して止めずあの子への愛の信仰を育み続けよう。たとえ二度と触れることが叶わぬとも今まで通り、それ以上に愛することへ生涯を、そしてこの肉体を君の魂の住まう宮、金枝の宿主となるアリキアの木立として捧げよう。そして、今際の際までも共に在りたいと願う。それが「愛する対象の喪失」に対しての僕の答えであり、救いでもあった。

Eric Clapton – Let It Grow

岐路に立ち 答えに進むべき道を考える

解っている それは愛を植え育てることだと

育てるんだ 花は咲き 風にそよぐ

陽射しの中で 雨の中で 雪の中で

愛こそは素晴らしい

愛を育てるんだ

 

-管理人の雑記

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